やさしい解説 v5.2

ReverStarGo(RSG)独立研究レポート ― 新しいボードゲームの深さを測る

37 マスの六角形ボードゲーム「RSG」を、リバーシと比べてどれくらい奥深いか、データで調べてみました。
本論文のやさしい解説版です。10 分くらいで読めます。

著者:独立研究家(西口 猛)/ 2026 年 4 月 / v5.2(2026 年 8 月 改訂)

🎮 はじめに ― このゲームと研究の経緯

40 年前、私は新しいボードゲームの構想を温めていました。 当時は、駒と盤を作るところから始めなければならず、形にすることができずにいました。

時代が流れ、AI でアプリを作れる時代になり、ようやく形にできるようになりました。 「いま作るならどうするか」と考え直し、昔の構想(一回り大きな 73 マス)から、 時代に合わせて一回り小さな 37 マスの星型盤に縮小しました。

ところがここで、ひとつの不安が浮かびました。

不安

「この小ささでは、コンピューターで先を読むうちに最善手が決まってしまい、 結局底の浅いゲームになってしまうのではないか?」

そこで、3 つのリバーシ系ゲームで AI 同士に対決させ、 RSG が本当は深いのか、浅いのかを、データで確かめてみることにしました。 本ページは、その分析の結果を、なるべくやさしい言葉で紹介する解説版です。

1. RSG ってどんなゲーム?

RSG(リバースターゴ)は、リバーシと囲碁の要素に独自のルールを組み合わせたボードゲームです。次のような特徴があります。

つまり、リバーシ + 囲碁の「囲んで取る」 + 独自の戦略要素を組み合わせたゲームです。

補足

RSG は 無料のブラウザアプリとして公開されています(リンクはページ下部)。 ルールの詳細は、本論文の第 1 章に図入りで丁寧に説明されています。

2. 「ゲームの深さ」って何だろう?

「このゲームは奥が深い/浅い」って、よく言いますよね。でも、それを数字で表すって、どうすればいいでしょうか?

2-1. 「同じゲームを何回やっても、毎回違う?」

本研究では、こういう問いを立てました。

問い

「同じゲームを 1 万回やったとき、それぞれの対局が、どれくらい違う展開になるか?」

毎回まったく違う展開になるなら、戦略の幅が広い=奥深いと言えそうです。
逆に、すぐ同じ展開ばかりになるなら、戦略の幅は狭いといえます。

2-2. β(ベータ)値という指標

これを測るのに使うのが、Heaps' law(ヒープスの法則)という昔から知られている法則です。 もともとは「文章を読んでいくと、新しい単語がどれくらいの速さで増えていくか?」を表す式として、言語学で使われていました。

V(n) = K × nβ

細かい式は気にしなくて大丈夫。大事なのは β(ベータ)という数字です。

β 値の直感:「同じゲームを 1 万回やったら、何通り違う展開になる?」 β = 1.0 毎回違う展開 戦略の幅が広い β = 0.5 だんだんダブる ある程度収束する β = 0.0 すぐ同じ展開 戦略の幅が狭い

つまり β 値は、「戦略の幅がどれだけ尽きにくいか」を表す指標と言えます。

2-3. ところが、β 値だけでは「深さ」は測れない

ここがちょっと不思議なところです。

たとえば、まったくランダムに手を打つ AI 同士を戦わせると、毎回違う棋譜が出てくるので β は 1.0 に近くなります。 でもそれは「戦略があるから」ではなく、「戦略がないから何でもアリ」だっただけです。 (実際、本研究で最も弱い AI レベル(ランダムに近いレベル)では、3 ゲームすべて β ≈ 1.0 になりました。)

大事なポイント

β 値の絶対値だけ見ても、ゲームが深いかどうかは分かりません。 値が高くても「戦略がないだけ」かもしれず、値が低くても「定石がすぐ固まっただけ」かもしれないからです。

では、どうすればゲームの「本当の深さ」を測れるのでしょうか?

2-4. 大事なのは「先読みを深くしたときの β の動き」

そこで本研究では、こう考えました。

本研究の発想

同じゲームで、AI の先読みの深さを 浅く(D1)から深く(D5)まで変えていって、 β 値が どう動くか を見てみよう。

つまり、本研究で「ゲームの深さ」と呼ぶのは、β 値の絶対値ではなく、 先読みの深さを変えたときの β の変化パターンです。 そして、この変化パターンこそが、第4章で出てくる「J字型挙動」につながっていきます。

たとえば本を読んでいるとき、最初は知らない言葉ばかり出てきますが、しばらく読むと「またこの単語か」と感じるようになりますよね。 あの「新しい言葉が出てくる速さ」と同じ考え方を、ゲームの「新しい展開が出てくる速さ」に応用しているわけです。

3. 3 つのゲーム兄弟で実験してみた

RSG だけ調べても「これって本当に奥深いの?」がわかりません。そこで、リバーシ系の 3 つのゲームを同じ条件で戦わせて比べてみました。

① 6×6 リバーシ

36 マス・約 32 手・正方形・純粋なリバーシ

RSG とほぼ同じ大きさ(マス数)のリバーシ。ただし盤面の形(正方形)もルールも違います。 「サイズが似ているから RSG と比べやすい」対照群です。

② RSG(本研究の主役)

37 マス・約 33 手・六角の星型・キャプチャ+コール+コウ

本研究の主役。マス数は 6×6 リバーシとほぼ同じですが、形は六角の星型、ルールも独自です。

③ 8×8 リバーシ

64 マス・約 60 手・正方形・標準的なオセロ

みんな知ってる普通のオセロ。RSG より約 1.7 倍大きく、手数も 2 倍。

3-1. 同じ AI で戦わせる

ここがポイントです。3 つのゲームすべてで、同じ仕組みの AIを実装しました。 10 段階のレベル(Lv.1〜Lv.7 と D1〜D5。ただし Lv.6 = D2、Lv.7 = D5 で重複するので 10 段階)を用意し、各レベルで同じレベル同士を 10,000 局ずつ対戦させました。3 ゲーム合計で 30 万局のデータです。

なぜ「同レベル対戦」?

強さの違うAI同士だと、強い方ばかり勝って結果が偏ります。「同じ強さどうしの戦い」だけを見ることで、そのレベルでのゲームの本質的な戦略の幅を観察できます。

4. 結果 ― J字型の「大きさ」で 3 つに分かれた

先読みの深さ(D1〜D5)を変えながら β 値を測ると、3 ゲームに共通の不思議なパターンが現れました。

4-1. D2 で底、D3 で再上昇 ―「J字型挙動」

3 ゲームともに、先読みの深さを変えていくと、β 値が「下がってから上がる」特徴的なパターンが見られました。本研究ではこの動きを 「J字型挙動」 と呼んでいます(経済学などで使われる呼び方です)。

下のグラフ(図1)が、その全体像です。

図1 Lv 系列+D 系列 合成 β 値グラフ(3 ゲーム比較) 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 Lv.1 Lv.2 Lv.3 Lv.4 Lv.5 D1 Lv.6 (=D2) D3 D4 Lv.7 (=D5) 評価関数バリエーション Negamax 探索深度 8×8 リバーシ RSG 6×6 リバーシ マーカー: Lv 系列 D 系列の追加点 レベル / 探索深度 β 値

図1 では、横軸の左半分が 「評価関数バリエーション」(Lv.1〜Lv.5、先読みなしの AI)、 右半分が 「Negamax 探索深度」(D1〜D5、先読みする AI)です。 3 ゲームとも、Lv.5 から D1 へかけて β 値が一気に下がり、 D2 で底をついたあと、D3 以降で再び上昇していく 流れが見えます。

この「下がってから上がる」流れこそが J字型挙動の正体 です。3 ゲームすべてに、この共通の形が現れています。

4-2. J字型の「大きさ」が 3 ゲームを分ける

面白いのは、3 ゲームともJ字型を示すけれど、その「大きさ」が違うこと。 図1 でも、青(8×8)の戻り幅が一番大きく、緑(6×6)の戻り幅が一番小さいのが見て取れます。 具体的に、D2 から D3 への上昇幅を表で比較してみましょう。

ゲームD2 の βD3 の β上昇幅分類
8×8 リバーシ0.3800.664+0.284大きなJ字型
RSG0.3700.462+0.092中程度のJ字型
6×6 リバーシ0.0100.058+0.048小さなJ字型

つまり、深く読んだときに新しい戦略がどれだけ広がるかが、3 ゲームで大きく違うのです。 8×8 リバーシでは深く読むと戦略が大きく広がる(大きなJ字型)。RSG はそこそこ広がる(中程度)。 6×6 リバーシは深く読んでもあまり広がらない(小さなJ字型)。

4-3. RSG はどのグループ?

🔵 8×8 リバーシ(大きなJ字型、β = 0.38〜0.68)

標準的なオセロ。盤面が大きく、戦略の幅も広い。

🔴 RSG(中程度のJ字型、β = 0.37〜0.54)

盤面は 8×8 リバーシの約 58%、手数は約 55%しかないのに、 J字型挙動という質的特徴は 8×8 と同じ。β 値範囲も 8×8 リバーシに準ずる水準にあります。 さらに、ほぼ同サイズの 6×6 リバーシ(36 マス・約 32 手)と比べても、 RSG(37 マス・約 33 手)はサイズも手数もほぼ同じなのに、明確に深い水準にあります。

🟢 6×6 リバーシ(小さなJ字型、β = 0.00〜0.10)

RSG とほぼ同じ 36 マス、しかも同じ正方形の親戚なのに、J字型がぐっと小さい。 深く読んでも戦略空間が大きく広がりません。

5. これって何が面白いの?

5-1. ポイントは「サイズが似ているのに別世界」

もし「盤面が大きいゲームほど深い」という単純な話なら、RSG(37 マス)と 6×6 リバーシ(36 マス)はほぼ同じ深さになるはずです。

でも実際には、両者は β 値で0.36 以上の差をもって、明確に離れた水準にあり、J字型の大きさも別グループです。

この研究が示したこと

ゲームの奥深さは、盤面のサイズだけでは決まらない。

盤面の(六角の星型)と、ルール(キャプチャ・コール・コウ)が、戦略空間を大きく広げている。 RSG は、ずっと小さな盤面で 8×8 リバーシと同じ「J字型」グループ(中程度のJ字型)に入っていました。

5-2. 「底の浅いゲーム」ではなかった

40 年前から温めていた構想を、AI 時代になってようやく形にできました。 ただし、73 マスから 37 マスに小さくしたことで、「底の浅いゲームになってしまうのではないか」という不安が残っていました。
本研究で 3 つのリバーシ系ゲームを比較したところ、データはこう答えてくれました。
RSG は、同サイズの 6×6 リバーシより明確に深く、より大きな 8×8 リバーシに準ずる水準にある ―― つまり、「小さくしても、底の浅いゲームにはならなかった」というのが、本研究で得られた答えです。

5-3. 著者からの正直なコメント

本研究には限界もあります。

5-4. なぜ D5 で止めたの?

本研究は、独立研究家が個人の PC(Intel Core i5、メモリ 16GB と 8GB)で実施しました。 Negamax 探索という方法で先を読むのですが、1 手深く読むだけで計算時間が指数的に増えるのです。

たとえば 8×8 リバーシ D5(5 手先読み)の 10,000 局取得には、約 56 時間(約 2.3 日)もかかりました。 D6 以降は数日〜十数日 PC をつけっぱなしにしないといけないので、現実的に難しく、D5 までで一区切りとしています。

❓ よくある質問

Q1. β 値が「1 に近い」と何がいいの?

「毎回違う展開になりやすい」=飽きにくい・戦略の引き出しが多いと言えます。ただし、β 値が高いから即「面白いゲーム」とは限らないので、あくまで「戦略の幅」の指標です。

Q2. 6×6 リバーシの β 値が低いのは「弱いゲーム」だから?

そうではありません。盤面が小さいぶん戦略空間が狭く、AI が少し先を読むだけで「これが良さそう」と判断するルートが限られてしまい、いつも似たような展開に収束してしまうから、というのが本研究で観察された現象です。
なお、6×6 リバーシは完全解析(Feinstein ら)により「白が必ず勝つ」ことが知られているゲームでもあります。本研究の AI は D5 までの先読みなので、まだ完全解析の結論までは届いていませんが、深く読めば読むほどその方向に近づくと考えられます。

Q3. 「8×8 リバーシに準ずる水準」って、つまり同じくらい?

いいえ、絶対値では 8×8 リバーシのほうが上です。とくに先を 3 手以上読む(D3〜D5)と、8×8 リバーシの β 値はもっと高くなります。「準ずる水準」とは、6×6 リバーシのような小さなJ字型ではなく、8×8 リバーシ(大きなJ字型)に近い『中程度のJ字型』グループに位置するという意味です。盤面が約 58%、手数が約半分しかないのに、その範囲に収まっていること自体が、本研究の主張のポイントです。

Q4. AI で測ったら、人間の戦略とは違うのでは?

そのとおりです。本研究で測っているのは「同じ AI 枠組みで戦わせたときの戦略空間」です。人間が遊んだときの感覚や面白さは、また別の問いです。とはいえ、人間の対局データを大量に集めるのは難しいので、AI を使うのは現実的な妥協点でもあります。

Q5. なぜ D5 までしか調べていないの?

著者の個人 PC では、D5 の 1 万局取得に約 56 時間(約 2.3 日)かかりました。D6 以降は計算時間がさらに指数的に増えて、現実的に厳しいのです。もっと高性能な計算環境が使えるようになったら、改訂版で扱う予定です。とくに 6×6 リバーシは深く読めばJ字型がもっと立ち上がる可能性があり、興味深い課題として残されています。

Q6. なぜ「J」字型? ひらがなの「し」の方が似てない?

するどいご指摘です😊 グラフの形を素直に見ると、確かにひらがな「し」の方が似ています。でも「J カーブ」「J 字型」は経済学・社会学・医学などで「初期に下がって後で上昇する」パターンを表す呼び名として、世界中で広く使われています。本研究もその慣習にならって「J字型」と呼んでいますが、視覚的に「し」の字を思い浮かべて読んでいただいても、ほぼ同じ意味です。

Q7. J字型が「大きい」と何がいいの?

J字型が大きいということは、「先読みを深くすると、新しい戦略がたくさん現れる」ということです。プレイヤー視点で言うと、「深く考えれば考えるほど、新しい発見がある」ゲームです。逆にJ字型が小さいと、「ある程度のところで最善手が決まってしまい、深く考えても新しい展開が出にくい」ゲームになります。つまり、J字型の大きさは「プレイヤーが深く読み込んで楽しむ余地」の大きさを反映していると言えます(ただし、「J字型が大きい=面白い」とは限らないので、あくまで戦略の引き出しの広さの指標です)。