ReverStarGo の戦略的深さに関する定量的分析
― 6×6 リバーシ・8×8 リバーシとの 3 ゲーム比較 ―

独立研究家(西口 猛)
2026年4月 / v5.2(2026年8月 改訂)

※ より平易な内容の やさしい解説版 もご用意しています

要 旨

本研究は、独立研究家により設計された 37 マス六角ボードゲーム ReverStarGo(以下 RSG)の戦略的深さを、リバーシ系の 2 つの対照ゲーム(8×8 標準リバーシ、6×6 リバーシ)と比較して定量的に評価する。3 ゲームすべてで完全に同一の AI アルゴリズム枠組み(Lv.1〜Lv.7、D1〜D5)を実装し、同レベル対戦 10,000 局 × 10 系列(Lv.1〜Lv.7 と D1〜D5。ただし Lv.6 = D2、Lv.7 = D5 のため重複分を除く)× 3 ゲーム(合計約 30 万局)の棋譜多様性を Heaps' law の指数 β により解析した。

得られた中心的結果は、3 ゲームを分ける指標が β 値の絶対水準ではなく「J字型挙動の大きさ」(D2 で β が一旦低下し、D3 以降で再び上昇する深度依存性のパターンの強さ)にあることである。8×8 リバーシ(β=0.38〜0.68)は大きなJ字型、RSG(β=0.37〜0.54)は中程度のJ字型、6×6 リバーシ(β=0.00〜0.10)は小さなJ字型を示す。

本研究の中心メッセージは「RSG は 8×8 リバーシと同じくJ字型挙動を示すグループ(中程度のJ字型)に属し、その β 値範囲も 8×8 リバーシに準ずる水準にある。一方、ほぼ同サイズの 6×6 リバーシ(小さなJ字型)とは β 値で 0.36 以上の差をもって質的に異なる戦略空間を持つ」である。これは「ゲームの戦略空間の構造的性質は盤面サイズだけでは決まらず、盤面の形やルールの構造によって質的に変わる」という、ゲーム設計上重要な事実をデータで実証するものである。なお、本結論は D5 までの観察に基づくものであり、より深い分析(D6 以降)では分類の様相が変わる可能性がある(第3章 3.3 注記参照)。

目 次

第1章 はじめに

1.1 ReverStarGo(RSG)というゲーム

ReverStarGo(以下、RSG)は、本研究の著者が約 40 年間にわたり構想を温めてきたボードゲームである。リバーシ(オセロ系統)の発展形として、囲碁の「囲んで取る」要素と独自の判定基準(石数 + 捕獲数)を加えた。盤面は 37 マスの六角形で、リバーシの 64 マスと比べると約 58% の大きさである。

RSG の主要な特徴:

RSG は 2026 年現在、ブラウザ動作のアプリとして無料公開されている。

1.1.1 盤面と初期配置

RSG の盤面は 37 マスの六角形(星型) で、中央の特殊マス CP(コアポイント)と、それを取り巻く環状の構造を持つ。中央 6 マスに黒石・白石が交互に配置され、黒石が先手で対局を開始する。

図1:RSG 盤面構造(37 マスの星型)
中央の特殊マス CP(紫)と、それを取り巻く環状構造の 36 マスで構成される(合計 37 マス)。色の濃淡は中央からの距離を示す。
図2:初期配置
中央 CP の周囲 6 マスに黒石 3 個・白石 3 個が交互配置される。黒が先手で対局を開始する。

1.1.2 フリップ:挟んで裏返す

リバーシと同様に、相手の石を自分の石で挟むと、間の石が自分の色にひっくり返る。挟める方向は六角形の 6 方向(縦・横・斜め系統)である。1 着手で複数方向に同時にフリップが起きることもある。

図3:フリップ(挟んで裏返す)
①着手前
②着手後
黄色のドットは黒の着手可能位置。新しく黒を置くと、左端の黒と新しく置いた黒で挟まれた間の白石 2 個が同時に黒へ裏返る。新しく置いた石は青枠で示す。

1.1.3 キャプチャ:囲んで取る

RSG の最大の特徴は 囲碁的なキャプチャ(囲んで取る)である。フリップによって新たに自分の色になった石が、相手の石を取り囲む役割を果たす。一手で複数方向のフリップが同時に発生し、その結果として相手の石が完全に自分の色で囲まれた場合、その石は盤面から取り除かれて捕獲数として加算される。

図4:キャプチャ(囲んで取る)― RSG の核心ルール
①着手前
②着手+連鎖フリップ
③白石が捕獲され消滅
① 黒の着手前。黄色ドットの位置に黒が着手すると、② 2 方向で同時にフリップ が起こり、その結果として中央付近の白石 1 個が完全に黒で囲まれる(赤い破線)。③ 自由を失った白石は盤面から取り除かれ、黒の捕獲数として加算される。このメカニクスがリバーシ要素(フリップ)と囲碁要素(囲んで取る)を結びつける、RSG 独自の核心ルールである。

1.1.4 コアポイント(CP)と「コール」

盤面中央の CP は特殊マスである。プレイヤーが CP に石を置く際、自分の手番の色ではなく、黒・白のどちらの色で置くかを「コール」によって選択できる。コールの選択によって挟み判定の起点が変わるため、フリップ・キャプチャの結果が大きく異なる。これは RSG 独自の戦略要素であり、終盤の勝敗を左右する重要な選択点となる。

図6:コール(同じ局面でも CP の色選択で結果が大きく変わる)
①黒着手前
②CP を白とコール
③CP を黒とコール
① 黒の着手前。盤面には黒石 1 個(右上)と白石 2 個(CP の対角線上)が並び、左下に黒の有効手(黄色ドット)がある。② CP を白とコールする と、向こう側の黒と挟まれた白石が連鎖的に反転し、盤面は黒だらけになる(CP の白も連鎖完了後にキャプチャされて元の CP に戻る)。③ 同じ局面で CP を黒とコールする と、CP の黒と新たに着手した黒で挟まれた白石 1 個だけが反転し、別の白石は残る(CP の黒も連鎖完了後にキャプチャされて元の CP に戻る)。同じ局面・同じ手でも、コールの色によって結果がまったく異なる、これが RSG の戦略性を支える独自要素である。

1.1.5 コウ禁則(同一局面の繰り返し禁止)

RSG のコウルールは「過去に一度でも現れた局面に戻る手は打てない」というものである。同一局面の判定は盤面の各マスの状態(黒・白・空)のみで行う。これは囲碁の単純コウより厳格な拡張で、無限ループを防止する。

図5:コウのルール(同一局面の繰り返し禁止)
①黒着手前
②黒着手+連鎖
③白の手番(赤=禁止)
①の局面で黒が黄色ドットの位置に着手すると、フリップとキャプチャが連鎖して②の状態になる。続いて白が赤マークの位置に着手しようとすると、再びフリップとキャプチャが連鎖して①と完全に同じ盤面に戻ってしまうため、白のこの着手はコウ禁則により禁止される。

1.1.6 終局と勝敗

ゲームは、(a) 盤面が埋まる、(b) 両者ともパスを続ける、(c) 両者ともコウしか打てない状態が続く ―― のいずれかで終了する。終局時、各プレイヤーの盤面上の石数 + 捕獲した石数の合計が多い方が勝者となる。両者の合計が等しい場合は、捕獲した石数が多い方が勝者となる。それも同数の場合は引き分けである。

1.2 研究の動機

RSG は、本来 8×8 リバーシ(64 マス)に類するゲームを、より小型・短時間に設計することを目指して作られた。盤面が小さくなることで対局時間は短くなるが、その代償として「戦略の深さが失われるのではないか」という懸念があった。

本研究は、この問いに定量的に答える試みである。

1.3 本研究の問い

RSG は、リバーシ系ゲームの中でどれほど深いゲームか。

この問いに答えるため、3 つのリバーシ系ゲームを対照実験として比較する。

ゲーム 盤面 平均手数 特徴
6×6 リバーシ 36 マス 約 32 手 純粋オセロ、完全解析済み
RSG(本研究の主題) 37 マス 約 33 手 六角・捕獲・コール・コウあり
8×8 リバーシ 64 マス 約 60 手 純粋オセロ

6×6 リバーシは RSG とほぼ同サイズ・同手数で、ルールと盤面形状が異なる対照群である。8×8 リバーシは RSG より約 1.7 倍大きな標準的なオセロである。この 3 ゲームを並べることで、RSG の戦略的深さを多角的に評価できる。

平均手数(実測値):表 1.3 の「平均手数」は本研究で取得した 3 ゲーム × 10 系列 × 各 10,000 局の実測値(実着手数、パスを除く)の概数である。盤面マス数からの算出値(RSG:37 マス − 中央 CP 1 マス − 初期配置 6 マス = 30 マス、6×6 リバーシ:36 マス − 初期配置 4 マス = 32 マス、8×8 リバーシ:64 マス − 初期配置 4 マス = 60 マス)と概ね整合し、リバーシ系(8×8、6×6)はそのまま、RSG では捕獲による再打着分(平均 約 3 手)が上乗せされた形となっている。各系列の詳細を表 1.3.A に示す。

表 1.3.A 3 ゲーム × 10 系列の平均手数(各 10,000 局実測、実着手数・パス除く)

系列 RSG 8×8 リバーシ 6×6 リバーシ
Lv.1 32.82 60.00 31.98
Lv.2 34.31 59.97 31.95
Lv.3 35.54 59.94 31.92
Lv.4 36.81 59.94 31.86
Lv.5 31.86 59.34 31.68
D1 31.71 59.99 32.00
D2(=Lv.6) 32.35 59.97 31.71
D3 32.42 59.95 32.00
D4 32.81 59.98 31.76
D5(=Lv.7) 31.61 59.97 31.92
全系列平均 33.22 59.91 31.88
:リバーシ系(8×8、6×6)の実着手数はそれぞれ便宜上の値(8×8 リバーシ:60 マス、6×6 リバーシ:32 マス)以内に収まり、空白終局・連続パスが少ないことを示している。RSG では実着手数が盤面マス数からの算出値(30 マス)を超える系列があるが、これは RSG 独自のルールである 石の捕獲(キャプチャ)による再打着を含むためである(一度打たれた位置でも、捕獲で空きマスに戻れば改めて打着できる)。RSG 全系列の実着手数の平均は 33.22 手 であり、その内訳は 盤面マス 30 + 捕獲再打着 約 6.01 − CP 通過分 約 2.10 − 空白終局 約 0.69 ≈ 33.22 と分解できる(捕獲数平均:黒 3.03 個・白 2.99 個、合計 6.01 個/局)。CP(コアポイント)に置かれた石はコール処理後に取り除かれるため、捕獲数としては記録されるが盤面マスを消費しない。これが上式の「− CP 通過分」に対応する RSG 独自の戦略要素である。

RSG では、ランダム系(Lv.1〜Lv.4)は手数が長め、戦略系(Lv.5 以降の浅探索)は手数が短めという傾向が観察される。これは戦略性が高い AI ほど早期に勝敗を決着させやすく、空白終局(盤面が完全に埋まる前にパス/コウのみで終局する状態)が増えるためである。一方、リバーシ系では各レベルの平均手数がほぼ一定であり、これは盤面が必ずほぼ埋まることに対応する。

1.4 本レポートの構成

本レポートは 5 章で構成される。

内容
第1章 はじめに(本章)
第2章 研究方法(β 値、AI 設計、実験設計)
第3章 結果(3 ゲームの β 値比較)★核心★
第4章 補足観察(先後手・引分・6×6 完全解析への収束)
第5章 結論

第3章が本研究の核心である。3 ゲームの同レベル対戦における β 値を比較し、RSG の戦略的深さを実証する。

第2章 研究方法

2.1 β 値とは:「棋譜の増え方の形」

本研究では、ゲームの戦略的多様性を Heaps' law という統計法則で測定する。Heaps' law はもとは言語学で発見された経験則で、文書中の語彙の増え方を表すべき乗則である。

V(n) = K × nβ

両辺の対数を取ると、log-log プロット上で直線になり、傾きが β である。

「ユニーク棋譜」とは:同じ手順(一手目から最終手まで完全に一致する手順)を持つ棋譜を 1 つとしてカウントしたもの。例えば 1,000 局打って 500 局が完全に同じ手順だった場合、ユニーク棋譜数は 501(同手順 1 + 異なる 500)となる。

β 値の直感的な意味

ユニーク棋譜率は「ある時点のスナップショット」(例えば 10000 局時点での値)。 β 値は「対局数を増やしたときの、ユニーク棋譜の増え方の形」。

β 値 意味
1.0 毎局新しい棋譜(戦略空間が広い)
0.5 じわじわ増えるが、徐々に飽和
0.0 もう新しい棋譜が出ない(戦略空間が尽きた)

つまり β 値は、「戦略空間がどれだけ尽きにくいか」を表す指標である。

β 値の解釈における限界

β 値はゲームの戦略空間の広さを反映するが、「ゲームの面白さ」や「絶対的な深さ」を直接測るものではない。本研究では「3 ゲームを同一の AI 枠組みで対戦させたときの β 値の比較」として用いる。

2.2 3 ゲームの実装環境

3 つのゲームすべてで、同一の AI アルゴリズム枠組みを実装している。

2.2.1 ReverStarGo(RSG)

2.2.2 8×8 リバーシ

2.2.3 6×6 リバーシ

2.3 AI レベル設計

3 ゲーム共通で次の 12 レベルの AI を実装している。

強度レベル(Lv 系列)

Level アルゴリズム
Lv.1 評価関数で順位付けし、下位 50% からランダム選択
Lv.2 完全ランダム
Lv.3 評価関数で順位付けし、上位 60% からランダム選択
Lv.4 評価関数で最大値を選択
Lv.5 フリップ数 × 3 + 位置価値の加重評価
Lv.6 Negamax depth=2 + α-β 枝刈り
Lv.7 Negamax depth=5 + α-β 枝刈り
位置価値テーブルは各ゲーム独自設計:Lv.5 で用いる位置価値テーブルは、3 ゲームそれぞれの盤面構造に応じて独自に設計されている。リバーシ系(8×8、6×6)は古典的な評価(角 +50、X 点 -40〜-50、C 点 -25〜-30、辺中央 +10 等)を踏襲。RSG は六角盤面の腕の先端 +50、その隣 +20、中央 CP +1 等の独自設計(マイナス値なし)。盤面形状が異なるため共通テーブルは原理的に作れず、各ゲームの構造を反映した位置価値となっている。したがって「同じ Lv.5」という呼称は「同じ評価枠組み(フリップ数 × 3 + 位置価値)の中での各ゲーム独自の位置評価」を意味する。

探索深度レベル(D 系列)

Depth アルゴリズム Lv 系列との対応
D1 Negamax depth=1 (対応なし)
D2 Negamax depth=2 = Lv.6
D3 Negamax depth=3 (対応なし)
D4 Negamax depth=4 (対応なし)
D5 Negamax depth=5 = Lv.7

D2 = Lv.6、D5 = Lv.7 という対応関係があるため、本研究では同じデータを 2 つの章(強度レベル・探索深度)で異なる切り口から再分析する。

2.4 実験設計

2.4.1 同レベル対戦のみ

本研究では同じレベルの AI 同士の対戦のみを扱う。これにより、対戦結果の差を「ゲームの構造の差」として解釈できる。

各レベル × 各ゲームで 10,000 局を実行する。

2.4.2 開局ランダム化

各対局の最初の 2 手をランダムに選択する(3 手目以降は通常の AI 判断)。これにより、開局のバラエティを確保し、AI の決定論的傾向に過度に左右されないデータが取れる。

2.4.3 チェックポイント

各対戦で次の 7 点で集計を取る:

`` 500 / 1,000 / 2,000 / 4,000 / 6,000 / 8,000 / 10,000 局 ``

2.4.4 β 値の算出方法

2.1 節で示した Heaps' law の式の両辺の対数を取ると:

log V(n) = log K + β × log n

これは log V(n) と log n の間に 傾き β、切片 log K の線形関係があることを意味する。したがって、(n, V(n)) の対を log-log プロット上に描き、最小二乗法で直線を当てはめれば、その傾きが β 値となる。

具体的な算出手順:

  1. n ≥ 500 のチェックポイント 7 点(500 / 1,000 / 2,000 / 4,000 / 6,000 / 8,000 / 10,000 局)を選択
  2. 各チェックポイントで(nV(n))の対を取得
  3. 両対数平面上で最小二乗法による線形回帰を実施
  4. 得られた傾きを β 値とする

n < 500 の領域を除外する理由は、Heaps' law が漸近領域で成立するべき乗則であり、対局数が少ない領域では曲線が落ち着いていないためである。前半(500→4,000)は対数等間隔(×2 刻み)、後半(4,000→10,000)は線形等間隔で配置することで、Heaps' 漸近領域における回帰の信頼性を高めている。

2.5 データ規模

系列 RSG 8×8 リバーシ 6×6 リバーシ
Lv 系列(7 段階) 70,000 局 70,000 局 70,000 局
D 系列(追加 3 段階:D1, D3, D4) 30,000 局 30,000 局 30,000 局
合計 100,000 局 100,000 局 100,000 局

3 ゲーム合計 30 万局の AI 対戦データを取得した。

2.6 実験環境と再現性の担保

本研究は独立研究家による単独実施のため、第三者による検証手段が限定的である。この性質を踏まえ、以下の三重の担保を用意した。

2.6.1 二台の独立した PC 環境による相互検証

中核データはメイン PC とサブ PC の二つの独立した環境で取得した。両環境はハードウェアおよび OS エディションが異なり、計算環境としては相応の相違がある。両環境の仕様を表 2.6 に示す。

表 2.6 実験環境の仕様

項目 メイン PC サブ PC
CPU Intel Core i5-12400(第12世代、2.50 GHz) Intel Core i5-10505(第10世代、3.20 GHz)
メモリ 16.0 GB 8.0 GB
OS Windows 11 Home(バージョン 25H2) Windows 11 Pro(バージョン 25H2)
ブラウザ Microsoft Edge Microsoft Edge

両環境の CPU は世代が 2 世代異なり、メモリ容量も 2 倍の差がある。OS のエディション(Home / Pro)も異なる。このように計算環境としては相応の相違があるが、両環境から得られた結果には統計的有意差が認められなかった。

2.6.2 研究対象のオープン化

本研究で用いた 3 ゲーム(RSG、8×8 リバーシ、6×6 リバーシ)の実装はすべて同一のコードベースから派生しており、ブラウザアプリとして一般公開されている。読者は同じ実装を用いて、任意の対戦実験を自ら再現・検証することが可能である。

2.6.3 D5 を最終探索深度とした理由

本研究の探索深度の上限を D5 とした主たる理由は、上記 PC 環境における計算時間の現実的制約である。Negamax 探索は深度を 1 増やすごとに計算時間が指数的に増加し、特に 8×8 リバーシ D5 同レベル対戦の 10,000 局取得には約 56 時間(約 2.3 日)を要した。D6 以降の取得は、現行 PC では数日〜十数日の連続稼働を必要とし、本研究の現実的な実施期間を超える。より高性能な計算環境が利用可能になり次第、改訂版で扱う予定である。

第3章 結果

― 本章が本研究の核心である。3 ゲームの同レベル対戦の β 値を、まず強度レベル(Lv 系列)で概観し、続いて探索深度(D 系列)で詳細に分析する。最後に、両系列を貫く中心的発見として「J字型挙動の大きさによる 3 ゲームの分類」を示す。

3.1 強度レベル(Lv 系列)の β 値

まず、AI 強度レベル(Lv.1〜Lv.7)における β 値の挙動を概観する。これは本研究の発見の起点となる観察である。

表3.1 Lv 系列の β 値(n≥500 7点回帰)

Level RSG 8×8 リバーシ 6×6 リバーシ
Lv.1 1.000 1.000 1.000
Lv.2 1.000 1.000 1.000
Lv.3 1.000 1.000 1.000
Lv.4 0.997 1.000 0.998
Lv.5 0.748 0.977 0.728
Lv.6(=D2) 0.370 0.380 0.010
Lv.7(=D5) 0.539 0.683 0.097

Lv.1〜Lv.4 では 3 ゲームとも β ≈ 1.0(毎局新しい棋譜)であり、AI のランダム性が強い領域では 3 ゲームの差は現れない。Lv.5 で評価関数が効きはじめ、3 ゲームに微差が生まれる。3 ゲームの差が明確に分岐するのは Lv.6 以降である。

特に Lv.6 と Lv.7 の比較に注目すると、興味深いパターンが見られる:

Lv.6 = Negamax depth=2、Lv.7 = Negamax depth=5 であり、つまり先読み深度が 2 から 5 に増えたときの β 値の変化である。8×8 リバーシでは深く読むほど β が大きく回復するのに対し、6×6 リバーシではわずかな上昇にとどまる。

次の問い:では、先読み深度を 1 から 5 まで連続的に変化させたとき、3 ゲームの β 値はどのように振る舞うのか? Lv.6 と Lv.7 の 2 点だけでは見えない構造があるはずである。これを詳しく調べるため、探索深度を D1〜D5 まで網羅的に変化させた D 系列実験を実施した。

3.2 探索深度(D 系列)の β 値

D 系列(D1〜D5、Negamax 探索深度 1 から 5)における β 値を表3.2 に示す。

表3.2 D 系列の β 値(n≥500 7点回帰)

Depth RSG 8×8 リバーシ 6×6 リバーシ
D1 0.369 0.445 0.000
D2(=Lv.6) 0.370 0.380 0.010
D3 0.462 0.664 0.058
D4 0.424 0.663 0.021
D5(=Lv.7) 0.539 0.683 0.097
図1 Lv 系列+D 系列 合成 β 値グラフ(3 ゲーム比較) 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 Lv.1 Lv.2 Lv.3 Lv.4 Lv.5 D1 Lv.6 (=D2) D3 D4 Lv.7 (=D5) 評価関数バリエーション Negamax 探索深度 8×8 リバーシ RSG 6×6 リバーシ マーカー: Lv 系列 D 系列の追加点 レベル / 探索深度 β 値

図1 Lv 系列+D 系列の合成 β 値グラフ(Lv 系列は●、D 系列の追加点 D1・D3・D4 は◆。8×8 リバーシは大きなJ字型、RSG は中程度のJ字型を示し、6×6 リバーシは小さなJ字型にとどまる)

合成グラフ(図1)は、3.1 節で示した Lv 系列の点(●)に、D 系列の追加点 D1、D3、D4(◆)を、それぞれ深度的に対応する位置(Lv.5 と Lv.6 の間に D1、Lv.6 と Lv.7 の間に D3・D4)に重ねて描画したものである。両系列の交点となる Lv.6(=D2)と Lv.7(=D5)は同じ点を共有している。

このグラフからは、3 ゲームに次のような違いが視覚的に読み取れる。8×8 リバーシと RSG では、D2 で β 値が一旦下がり、D3 以降で大きく回復する特徴的な挙動が観察される。一方、6×6 リバーシも D2 で底をとり、D3 以降でわずかに上昇する同じ形を示すが、その上昇幅は他の 2 ゲームに比べて格段に小さい。

「J字型挙動」の定義:D1 → D2 で β 値が一旦低下し、D3 以降で再び上昇する挙動を、本研究では J字型挙動 と呼ぶ。経済学の J カーブ効果などで広く用いられる呼称で、最終値(D5)が初期値(D1)を上回って戻ってくる形を表す。視覚的にはひらがなの「し」の字にも似た形である。J字型挙動の 大きさ(D2 → D3 や D2 → D5 の上昇幅)は、ゲームによって大きく異なる。

D2 → D3 の β 値変化を整理すると:

8×8 リバーシは D2 → D3 で β 値が大きく跳ね上がり、典型的なJ字型を描く。RSG も同様にJ字型を示すが、上昇幅は 8×8 リバーシより緩やかである。6×6 リバーシはこの上昇が少なく、深度を変えても β 値は低位(β < 0.10)にとどまる。

参考図:3 ゲームの (n, V(n)) を log-log プロットしたもの(10 図、2 列×5 段)。各回帰直線(点線)の傾きが β 値。左列が Lv 系列(Lv.1〜Lv.5、評価関数バリエーション)、右列が D 系列(D1〜D5、Negamax 探索深度)。Lv.1〜Lv.4 は β≈1.0(45°直線)、Lv.5 で評価関数が効きはじめ、D 系列で深度を上げるとJ字型挙動が現れる様子が確認できる。

Lv.1 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 100,000 8×8 リバーシ β = 1.000 RSG β = 1.000 6×6 リバーシ β = 1.000 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
D1 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 8×8 リバーシ β = 0.445 RSG β = 0.369 6×6 リバーシ β = 0.000 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
Lv.2 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 100,000 8×8 リバーシ β = 1.000 RSG β = 1.000 6×6 リバーシ β = 1.000 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
D2 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 8×8 リバーシ β = 0.380 RSG β = 0.370 6×6 リバーシ β = 0.010 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
Lv.3 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 100,000 8×8 リバーシ β = 1.000 RSG β = 1.000 6×6 リバーシ β = 1.000 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
D3 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 8×8 リバーシ β = 0.664 RSG β = 0.462 6×6 リバーシ β = 0.058 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
Lv.4 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 100,000 8×8 リバーシ β = 1.000 RSG β = 0.997 6×6 リバーシ β = 0.997 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
D4 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 8×8 リバーシ β = 0.663 RSG β = 0.424 6×6 リバーシ β = 0.021 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
Lv.5 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 8×8 リバーシ β = 0.977 RSG β = 0.748 6×6 リバーシ β = 0.728 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)
D5 系列の log-log プロット(傾き = β 値) 500 1,000 2,000 5,000 10,000 1 10 100 1,000 10,000 8×8 リバーシ β = 0.683 RSG β = 0.539 6×6 リバーシ β = 0.097 対局数 n (log) ユニーク棋譜数 V(n) (log)

3.3 主要な発見

D 系列の β 挙動から、本研究の中心的な発見を 3 点に整理する。

発見 1:J字型挙動の大きさが 3 ゲームを分ける指標

D 系列における β 値の振る舞いに基づき、3 ゲームは次のように分類される:

表3.3 J字型挙動の大きさによる 3 ゲームの分類

ゲーム D2 → D3 の変化 D 系列の挙動 分類
8×8 リバーシ +0.284 D2 で底、D3 以降で大きく回復 大きなJ字型
RSG +0.092 D2 で底、D3 以降で回復 中程度のJ字型
6×6 リバーシ +0.048 D2 で底、D3 以降でわずかに上昇 小さなJ字型(低位)

J字型挙動の大きさは、単なる β 値の絶対水準の差ではなく、深度を変化させたときの β 値の応答パターンの強さを表している。深く読むほど新しい戦略が大きく生まれる(大きなJ字型)か、深く読んでも戦略空間がそれほど広がらない(小さなJ字型)かという、戦略空間の構造そのものの違いである。

これは、3 ゲームの戦略的性質を分ける根本的な指標として機能する。

本研究の射程に関する注記:本章の分類は D5 までの観察に基づくものである(D5 を最終深度とした計算時間上の理由は第2章 2.6.3 参照)。特に 6×6 リバーシは完全解析(Feinstein ら)により最善プレイは白勝ちであることが知られているが、本データの D5 段階では黒勝率がまだ高い水準にあり(第4章 4.3 参照)、D6 以降でJ字型挙動がより明瞭に立ち上がる可能性は否定できない。より深い分析は今後の課題である。

発見 2:RSG は 6×6 リバーシより明確に深い

RSG(37 マス)と 6×6 リバーシ(36 マス)はほぼ同サイズ・同手数であるにもかかわらず、β 値の挙動は大きく異なる:

表3.4 RSG と 6×6 リバーシの β 値の差

Depth RSG 6×6 リバーシ
D1 0.369 0.000 +0.369
D2 0.370 0.010 +0.360
D3 0.462 0.058 +0.404
D4 0.424 0.021 +0.403
D5 0.539 0.097 +0.442

全深度で RSG は 6×6 リバーシより β 値で 0.36 以上の差をもって上回り、両ゲームの β 値は明確に離れた水準にある。さらに発見1で示したように、RSG は中程度のJ字型挙動を示すのに対し、6×6 リバーシのJ字型挙動は小さい。両者は量的にも、深度依存性の応答強度の点でも、明確に異なる戦略空間を持つ。

この差は、ゲームのサイズ(盤面・手数)だけでなく、盤面の形やルールの構造が戦略空間を決定していることの証拠である。RSG の星型 37 マスの盤面と、捕獲・コール・コウの独自ルールが、同サイズの 6×6 リバーシでは到達できない戦略空間を生み出している。

発見 3:RSG は 8×8 リバーシに準ずる水準にある

RSG(37 マス、約 33 手)は、8×8 リバーシ(64 マス、約 60 手)と比べると約 58% の盤面・約 55% の手数しかない。それでも、β 値は 8×8 リバーシに準ずる水準 に収まる:

表3.5 RSG と 8×8 リバーシの β 値の差

Depth RSG 8×8 リバーシ
D1 0.369 0.445 −0.076
D2 0.370 0.380 −0.010
D3 0.462 0.664 −0.202
D4 0.424 0.663 −0.239
D5 0.539 0.683 −0.144

絶対値では 8×8 リバーシが上回り、特に D3 以降で差が広がるが、これは盤面と手数の差から自然に予想される結果である。重要なのは、RSG が J字型挙動という質的特徴を 8×8 リバーシと共有し、その大きさの順位として 8×8 リバーシ(大きなJ字型)に次ぐ位置にあることである。β 値の絶対範囲も8×8 リバーシに準ずる水準にとどまる。

3.4 本章のまとめ

3 ゲームの β 値比較から得られた、本研究の中心的な主張は次の通りである:

3 ゲームを分ける指標は、深度依存性の質的な違い、すなわちJ字型挙動の大きさである。8×8 リバーシは大きなJ字型、RSG は中程度のJ字型、6×6 リバーシは小さなJ字型を示す。RSG はJ字型挙動という質的特徴を 8×8 リバーシと共有し、その β 値範囲も 8×8 リバーシに準ずる水準にある。一方、ほぼ同サイズの 6×6 リバーシとは β 値で 0.36 以上の差をもって、明確に離れた水準を示す。なお、本章の分類は D5 までの観察に基づくものである(3.3 注記参照)。

J字型挙動の大きさは、ゲームのサイズだけでは決まらない、盤面の形やルールの構造に由来する戦略空間の根本的な性質を反映している。RSG の星型 37 マスの盤面と独自ルール(捕獲・コール・コウ)は、小型ゲームでありながら 8×8 リバーシと同じ質的特徴(J字型挙動)を中程度の大きさで生み出し、その結果として 8×8 リバーシに準ずる水準の戦略的深さを実現している。

第4章 補足観察

本章では、第3章の核心的発見に加えて観察された 3 つの副次的特徴を簡潔に報告する。これらは本研究の主軸ではないが、誤解を防ぐために記録しておく価値がある。

4.1 先後手の非対称性

両ゲームとも、後手(白)がやや有利な傾向を示す。これは「後手が情報優位を持つ」ためと解釈される。

表4.1 D 系列における黒勝率(10,000 局、同レベル対戦)

Depth RSG 8×8 リバーシ 6×6 リバーシ
D1 27.83% 32.12% 32.95%
D2 50.23% 36.16% 74.60%
D3 45.89% 32.74% 81.05%
D4 22.19% 38.91% 81.89%
D5 37.89% 42.49% 62.20%

特筆すべき観察:

4.2 引分構造の差異

引分の発生頻度が 3 ゲームで質的に異なる。

表4.2 D 系列における引分率(10,000 局、同レベル対戦)

Depth RSG 8×8 リバーシ 6×6 リバーシ
D1 0.00% 3.07% 0.00%
D2 1.35% 1.82% 4.16%
D3 0.00% 2.07% 0.00%
D4 0.00% 2.20% 3.94%
D5 4.38% 1.04% 4.05%

観察:

4.3 6×6 リバーシの完全解析への収束

6×6 リバーシは Feinstein らにより完全解析されており、最善プレイは白の 16-20 勝で終局することが知られている。本研究の AI 対戦データは、この完全解析の結論への収束過程を示している。

表4.3 6×6 リバーシの探索深度別黒勝率(開局決定的、追加実験)

探索深度 黒勝率 白勝率 引分率
D3 94.0% 6.0% 0.0%
D4 100.0% 0.0% 0.0%
D5 31.2% 56.4% 12.4%

D4 → D5 で黒勝率が 100% から 31.2% に急減している。これは AI が D4 までは表面的な戦略に収束していたが、D5 で初めて完全解析の結論(白勝ち)に近づき始めた兆候として解釈できる。

D6, D7 とさらに深く読めば、理論上は完全解析の結果(白勝ち)に収束するはずである。本研究の探索深度(D5 まで)はその収束過程の入り口を観察したものであり、「AI 対戦データで観察された黒勝率は、ゲームの最終的な結論を示すものではない」点に注意が必要である。

4.4 本章のまとめ

本章で観察された副次的特徴:

  1. 先後手の非対称性は 3 ゲームに共通するが、現れ方は異なる(RSG は D2 で均衡、リバーシは一貫して白優位、6×6 は D5 で逆転)
  2. 引分構造は 3 ゲームで質的に異なる(8×8 は常時、RSG は D5 のみ突出、6×6 は D2/D4 で集中)
  3. 6×6 リバーシの完全解析(白勝ち)への収束過程が D5 で観察される

これらは本研究の主軸(β 値による戦略空間の比較)とは独立した観察であり、それぞれが別の研究テーマとして展開可能である。詳細は本論文の射程を超えるため、別レポートに譲る。

第5章 結論

5.1 本研究が答えた問い

本研究は次の問いを立てた:

RSG は、リバーシ系ゲームの中でどれほど深いゲームか。

3 ゲームの同レベル対戦 30 万局のデータから、次の答えが得られた:

3 ゲームを分ける指標は、深度依存性の質的な違い、すなわちJ字型挙動の大きさである。8×8 リバーシは大きなJ字型、RSG は中程度のJ字型、6×6 リバーシは小さなJ字型を示す。RSG はJ字型挙動という質的特徴を 8×8 リバーシと共有し、β 値範囲も 8×8 リバーシに準ずる水準にある。一方、ほぼ同サイズの 6×6 リバーシとは β 値で 0.36 以上の差をもって、明確に離れた水準を示す。なお、本結論は D5 までの観察に基づくものであり、より深い分析(D6 以降)では 6×6 リバーシのJ字型がより明瞭に立ち上がる可能性がある(第3章 3.3 注記参照)。

5.2 本研究の主要な貢献

  1. 3 ゲーム同条件 AI 対戦による定量比較:完全に同一の AI アルゴリズム枠組み(Lv.1〜Lv.7、D1〜D5)で、3 ゲームの戦略空間を比較した
  2. 大規模データの取得:3 ゲーム合計 30 万局以上の対戦データを取得・公開した
  3. J字型挙動の大きさによる 3 ゲームの分類:先読み深度を変化させたときの β 値の応答パターン(J字型挙動の大きさ)を、3 ゲームを分ける質的指標として提示した
  4. 「サイズだけでは決まらない」ことの実証:J字型挙動の大きさにより、RSG は同サイズの 6×6 リバーシとは質的に異なり、より大きな 8×8 リバーシと同じグループに属することをデータで示した
  5. β 値という指標の応用:Heaps' law の指数を、ボードゲーム間の戦略空間比較に応用する試みを実装した

5.3 本研究の限界

本研究には次の限界がある:

  1. 対象ゲーム数:扱ったのは 3 ゲームのみ。「J字型」など本研究で観察された β 挙動が、他のボードゲーム(囲碁、将棋、チェス等)でも成立するかは本研究の範囲外
  2. 同レベル対戦のみ:異なる強度の AI 同士の対戦(例:D1 vs D5)は本論文では扱わない(別レポートに譲る)
  3. β 値の解釈:β 値は戦略空間の広さを反映するが、「ゲームの面白さ」を直接測るものではない
  4. 6×6 リバーシの完全解析との関係:観察された黒勝率の高さは過渡的現象であり、深い探索(D6 以降)では理論上白勝ちに収束する。本研究は完全解析自体を再現するものではない
  5. 位置価値テーブルの独自設計:Lv.5 で用いる位置価値テーブルは 3 ゲームで独自設計(リバーシ系は古典的評価、RSG は腕の先端を重視する独自設計でマイナス値なし)。盤面形状が異なるため共通テーブルは原理的に作れず、Lv.5 の比較は完全な対照ではなく「同じ評価枠組みの中での比較」として解釈する必要がある

5.4 今後の課題

  1. 他のボードゲームへの拡張:囲碁・チェス・将棋などへの本手法の適用
  2. 異レベル対戦の構造分析:強者黒・弱者黒の β 値差、ゴルディロックス現象等(別レポート予定)
  3. RSG の数学的構造:D₆ 対称群、3 大アトラクター、引分構造の詳細(別レポート予定)
  4. ゲーム設計への応用:本研究の β 値比較を、新規ゲーム設計の評価指標として活用する試み

5.5 結語

本研究は、独立研究家による定量的ボードゲーム研究の一試みである。学術機関に所属しないという制約を、データの誠実な取り扱いと、主張の節度によって補うことを目指した。

得られた結論「RSG は 8×8 リバーシと同じくJ字型挙動を示すグループ(中程度のJ字型)に属し、6×6 リバーシ(小さなJ字型)とは質的に異なる戦略空間を持つ」は、絶対的優位を主張するものではない。むしろ、同サイズ・同手数のゲームでも盤面の形やルールの構造によってJ字型挙動の大きさが大きく異なるという、ゲーム設計上の重要な事実を提示するものである。

ReverStarGo は無料で公開されている。本研究のデータは、誰でも検証可能な形で保管されている。本レポートが、今後のボードゲーム研究および設計実践において、何らかの参照点となれば幸いである。


著者: 独立研究家(西口 猛)

作成日: 2026年4月(データ取得・執筆)

バージョン: v5.2(2026年8月 改訂)

改訂履歴

※ 回帰点数の変更により β の値は最大 0.04 程度動くが、本研究の結論(J字型挙動の大きさによる 3 ゲームの分類)は変わらない。